136.3万人 → 98.7万人
令和2年から令和8年推定値までの変化。令和8年は標本調査による推定値です。
人手が足りないから、作業を減らしたい。けれど、手を抜けば収量や品質に跳ね返る。そんな悩みを抱えるプロ農家に向けて、土壌改良を「労働力不足への対策」として捉え直します。リサール酵産の飯川隼斗社長に、毎作の立て直しに追われない土づくりの考え方を聞きました。

人手不足の時代に必要なのは、単に作業を省くことではありません。収量や品質を落とさずに管理を軽くするには、潅水、追肥、耕うん、残さ処理、生育ムラ対応といった“後追い作業”を減らす畑づくりが重要です。
「手のかからない畑」とは、放っておいてもよい畑ではありません。水分と空気の通り道があり、根が張り、有機物が分解され、肥料が効きやすい。そうした土の状態が整うことで、毎作の立て直しに追われにくくなります。
機械化やスマート農業は、作業を速く、正確にする力があります。一方で、土が硬い、残さが分解されない、根が浅い、生育ムラが出るという問題は、機械だけでは消えません。だからこそ、土壌改良は省力化の土台になります。
農業の人手不足は、感覚だけの話ではありません。農林水産省の統計では、基幹的農業従事者、農業経営体、販売農家のいずれも減少が続いています。
136.3万人 → 98.7万人
令和2年から令和8年推定値までの変化。令和8年は標本調査による推定値です。
67.7歳
基幹的農業従事者の平均年齢は、令和7年、令和8年推定値ともに67.7歳です。
60.2千人 → 43.5千人
平成28年から令和6年までの変化。人を増やして解決するだけでは難しい局面です。
137.7万 → 80.0万
平成27年から令和8年推定値までの変化。管理負担が一部の経営体へ集まりやすい局面です。
販売農家も、平成12年の233.7万戸から令和7年には79.3万戸まで減っています。令和8年の値は標本調査による推定値のため、全数調査の年と直接比較する際には注意が必要です。それでも、この数字が示しているのは、単に「人が足りない」という現象ではありません。少ない人数で同じ圃場を回す、あるいは管理面積を広げる圧力が、以前より強くなっているということです。
これからの省力化は、作業を減らす話だけでは不十分です。潅水、追肥、耕うん、残さ処理が増える原因を、畑の状態から減らしていくという発想が必要になります。

農作業の手間は、予定された作業だけで決まりません。実際に現場を苦しくするのは、水が抜けない、生育ムラが出る、残さが分解されない、根が張らないといった問題が起きた後の対応です。
土が硬い、過湿、乾きすぎ、有機物の分解遅れが起きる
根が浅くなり、水分・養分を安定して吸いにくくなる
生育ムラ、追肥対応、潅水判断、病害対応が増える
次作前の残さ処理や耕うんに手間がかかり、作業が後ろ倒しになる
つまり、省力化の本丸は「今ある作業を何分短くするか」だけではありません。生育不良や土の不安定さから発生する、予定外の作業をどう減らすかです。
農林水産省は、スマート農業を「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業」と説明しています。これは重要な方向性です。ただし、機械やICTが力を発揮するには、圃場そのものが安定していることも欠かせません。
土壌改良を省力化につなげるには、「なんとなく土を良くする」では弱いです。どの作業を減らしたいのかを先に決めると、見るべき土の状態がはっきりします。
| 減らしたい手間 | 土の側で見るポイント | 土壌改良で狙うこと | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 潅水判断に追われる | 水持ち、水はけ、表面だけ乾く状態 | 有機物と団粒構造を整え、極端な乾湿差を減らす | 排水不良を有機物だけで解決しようとしない |
| 追肥や生育ムラ対応が増える | 根張り、pH、EC、肥料の効き方 | 根が伸びる土にして、肥料を吸える範囲を広げる | 不足養分を土づくりだけで補えるとは考えない |
| 残さ処理に時間がかかる | 残さの分解速度、水分、すき込み時期 | 作物残さを次作の資源として分解しやすくする | 未分解のまま次作に入ると根傷みの原因になる |
| 耕うん・畝立てが重い | 土の締まり、砕土性、過湿時の作業 | 有機物、根、微生物の働きで土の物理性を整える | 硬盤や排水問題は、物理的対策も検討する |
| 病害対応が後手に回る | 連作、根の傷み、過湿、未熟有機物 | 根が傷みにくい環境を整え、土壌環境の偏りを減らす | 病害を土壌改良だけで抑え込む発想は危険 |
農産物生産費統計では、10a当たり労働時間や米の作業別労働時間などが扱われています。自分の圃場でも、同じように「どの作業に時間を使っているか」を記録すると、土づくりの優先順位が見えやすくなります。
同じ「省力化」でも、露地野菜と施設栽培、果樹では負担になりやすい作業が違います。土づくりを始める前に、まず自分の作型で一番時間を奪っている作業を決めておくと、資材選びや施工時期の判断がぶれにくくなります。
| 作型 | 先に疑いたい作業負担 | 土づくりで優先したい視点 |
|---|---|---|
| 露地野菜 | 雨後に入れない、乾きすぎる、残さ処理が次作に間に合わない | 排水性、保水性、残さ分解、根が深く入る土づくりを優先する |
| 施設栽培 | 潅水判断、ECの上振れ、連作による生育ムラや根傷み | pH・EC、塩類集積、根域の通気性、有機物の分解状態を確認する |
| 水田転作・畑作 | 砕土しにくい、排水が悪い、すき込んだ残さが残る | 排水対策、すき込み時期、残さの分解期間、土の締まりを見直す |
| 果樹 | 樹勢ムラ、根域の乾湿差、草生管理や表層管理の負担 | 根域環境、表層有機物、通気性、水分の安定を長期目線で整える |
米国農務省のNRCSは、健全な土壌を、水の調整、養分循環、根を支える物理的な安定性などの機能を持つ生きた生態系として説明しています。これは日本の畑でも、省力化を考えるうえで参考になります。
乾きすぎ、抜けなさすぎの両方が管理を難しくします。水分の振れ幅が小さくなると、潅水や排水への緊急対応が減りやすくなります。
根が浅いと、肥料も水も取り切れません。根域が広がるほど、追肥や潅水で無理に支える場面を減らしやすくなります。
残さや堆肥を入れるだけでは不十分です。微生物が働き、次作の根が使いやすい形へ変わることで、圃場内資源を活かせます。


リサール酵産株式会社 代表取締役社長。微生物資材を活用した土づくりの普及に取り組む。
A:土壌改良をしたから、明日からすべての作業が半分になる、という話ではありません。減らしやすいのは、予定していた作業ではなく、土の不安定さから後で発生する修正作業です。
たとえば、根が浅ければ乾燥にも過湿にも弱くなり、潅水や追肥で追いかける場面が増えます。残さが分解されなければ、次作前の処理に時間がかかります。土が締まっていれば、耕うんや畝立ての負担も大きくなります。土づくりは、こうしたやり直しを減らすための土台づくりです。
A:機械化はとても大切です。人手が減る中で、作業を速く、正確にする技術は欠かせません。ただ、機械は「作業そのもの」を効率化するものです。土が原因で毎年同じトラブルが起きているなら、そのトラブル対応は残り続けます。
だから、機械化と土づくりは競合しません。むしろ両輪です。機械で作業を軽くしながら、土壌改良で生育ムラや残さ分解遅れを減らす。畑の状態が安定しているほど、機械やICTの効果も出しやすくなると考えています。
A:まずは、作業が重くなっている場所を見るとよいです。耕うんしても土が細かくならない、雨の後に乾きにくい、逆にすぐ乾く、同じ畑の中で生育差が大きい、根が浅い、残さがいつまでも残る。こうしたサインは、作業の手間と直結しています。
土壌診断の数値も大切ですが、現場で見える変化も見逃せません。特に人手が少ない農家では、問題が出てから直す余裕がありません。問題が出る前に、土のサインで先回りすることが省力化につながります。
A:残さ処理は、人手不足の現場で後回しになりやすい作業です。ただ、未分解のまま次作に入ると、ガス障害、根傷み、生育の立ち上がり不良につながることがあります。そうなると、結局あとで追肥や潅水、病害対応に手を取られます。
作物残さを早めに、きちんと分解させることは、次作の準備作業を軽くするだけではありません。圃場内の有機物を土に戻し、根が張りやすい環境を作ることにもつながります。残さを「片付けるもの」ではなく、次作の土を作る材料として扱うことが大事です。
A:あります。いちばん多いのは、資材を入れれば土の問題が全部解決すると考えてしまうことです。極端な乾燥、過湿、低温、pHの大きな偏り、未熟な有機物の入れすぎがあると、微生物も働きにくくなります。まずは、微生物が働ける環境を整えることが先です。
もう一つは、目的があいまいなまま使うことです。残さ分解を進めたいのか、根張りを支えたいのか、次作前の土づくりを楽にしたいのか。目的が決まっていないと、施工時期も水分管理も評価方法も決まりません。省力化のためには、資材名で選ぶよりも、どの作業負担を減らしたいのかから考えるべきです。
A:作業時間と、土の扱いやすさの変化を記録します。
土づくりを続けると、土がやわらかくなり、ロータリーをかけやすくなった、耕うん回数が減った、雑草を抜きやすくなったという変化が現れます。
耕うん、畝立て、除草、灌水などにかかった時間や回数を、前年や別の圃場と比較してください。収量だけでなく、作業時間や機械への負担がどれだけ減ったかを見ることで、土づくりによる省力化の効果を判断できます。
A:見る項目によって変わります。残さの分解具合や、耕うんのしやすさは、次作準備の段階でも変化を確認しやすい項目です。根張りや生育のそろい方は、1作を通して見る必要があります。地力や土の扱いやすさは、複数作で積み上げて判断するものです。
大切なのは、1作で期待通りにならなかったからといって、すぐに全部を否定しないことです。水分、すき込み時期、有機物の量、栽培期間、天候が違えば結果も変わります。できれば小さな区画で比較し、何を変えたら、どの作業が軽くなったのかを見ると判断しやすくなります。
省力化のための土壌改良は、いきなり全面で変える必要はありません。むしろ、人手が限られている農家ほど、負担が大きい作業を一つ選び、狙いを絞って始める方が続けやすくなります。
潅水、追肥、残さ処理、耕うん、病害対応など、毎作負担になっている作業を一つ選びます。土づくりの目的を作業削減に結びつけるためです。
pHやECだけでなく、土の締まり、乾き方、根の深さ、残さの残り方を確認します。数字と現場感を合わせると、対策の優先順位が見えます。
有機物は入れるだけでは働きません。水分、空気、微生物、分解期間をそろえて、次作に持ち越さない形を目指します。
残さ分解を進めたいのか、土壌環境を整えたいのか、根張りを支えたいのか。目的が決まると、使うタイミングと評価指標も決まります。
作業時間、追肥回数、潅水判断、耕うんのしやすさ、残さ分解の進み方を見ます。収量だけでなく、管理の軽さも評価します。
「なんとなく楽になった」では、次の投資判断につながりません。省力化を目的にするなら、作業時間と土の変化をセットで残しておくと、翌作の改善点が見えます。
| 見たい効果 | 記録する項目 | 見るタイミング |
|---|---|---|
| 残さ処理を軽くしたい | すき込み日、残さの残り方、分解までの日数、次作前の耕うん時間 | すき込み後、次作準備時 |
| 潅水判断を減らしたい | 潅水回数、乾き方のムラ、雨後の水の抜け方、根の深さ | 定植後から収穫期まで |
| 追肥対応を減らしたい | 追肥回数、生育ムラ、葉色、根張り、pH・ECの変化 | 生育中期、収穫後 |
| 耕うんを楽にしたい | 作業時間、土の砕け方、土の締まり、雨後に入れるまでの日数 | 耕うん時、畝立て時 |
土壌改良は、作業をゼロにするための近道ではありません。必要な管理をなくすのではなく、問題が大きくなる前に土の側で受け止めるための準備です。
今作の作業を減らすことだけを優先すると、残さ分解不足や土壌条件の悪化を次作に持ち越すことがあります。
排水不良、硬盤、病害の多発、施設環境の問題は、物理的対策や防除、栽培管理と組み合わせて考える必要があります。
省力化したい作業が不明確なまま資材を入れても、効果を判断できません。まず減らしたい手間を決めます。
農業人口の減少は、これからの農業経営で避けて通れない前提です。だからこそ、省力化を「人がやる作業を機械に置き換える」だけで考えると、現場の悩みを取りこぼします。
土が硬い、根が浅い、残さが分解されない、水分が安定しない。こうした状態がある限り、潅水、追肥、耕うん、残さ処理の負担は積み重なります。手のかからない畑とは、放置できる畑ではなく、やり直しが少ない畑です。
人手が限られる時代ほど、畑そのものを扱いやすくすることが経営を助けます。土壌改良は、収量や品質を支えるだけでなく、限られた労働力をどこに使うかを変える戦略でもあります。
微生物の働きが強く分解スピードが速いためすぐに次の栽培準備に取りかかれる
枯れた作物や根などを分解して、肥料成分として再利用できる
嫌気的条件でも活動できる微生物を含んでおり有害ガスの発生を抑えながら土壌を健全に保てる