ホルムズ海峡はエネルギー輸送の要衝
EIAは、ホルムズ海峡を世界で最も重要な石油輸送のチョークポイントの一つと位置づけています。海峡の混乱は、原油やLNGの価格だけでなく、海上輸送や燃料コストにも波及します。
ホルムズ海峡をめぐる緊張は、遠い国のニュースでは終わりません。エネルギー、天然ガス、尿素、輸送費。いくつもの経路を通じて、日本の肥料価格と農業経営に影響します。今回は、リサール酵産の飯川隼斗社長に、外部環境に振り回されにくい土づくりの考え方を聞きました。

ホルムズ海峡の問題は、単に「石油が通れなくなるかもしれない」という話ではありません。農業経営に置き換えると、エネルギー価格、天然ガス価格、肥料原料、海上輸送費が連鎖して動くリスクとして見ておく必要があります。
特に窒素肥料は、製造工程で天然ガスの影響を受けやすい資材です。日本は主要な肥料原料の多くを海外に依存しているため、国際情勢の変化がすぐに国内価格へ反映されない場合でも、次の仕入れ、契約、輸送費、販売価格にじわじわ効いてきます。
中東情勢が緊迫し、海上輸送やエネルギー供給への不安が高まる
原油・LNG・天然ガスの価格や輸送コストが上振れしやすくなる
尿素などの窒素肥料、輸入原料、国内物流コストに影響が広がる
農家の肥料調達コストが上がり、施肥設計と土づくりの見直しが必要になる

EIAは、ホルムズ海峡を世界で最も重要な石油輸送のチョークポイントの一つと位置づけています。海峡の混乱は、原油やLNGの価格だけでなく、海上輸送や燃料コストにも波及します。
World Bankは2026年の肥料価格指数について、尿素価格の上昇を主因に大きく上昇する見通しを示しています。窒素肥料の背景には、天然ガスというエネルギー原料があります。
農林水産省は、日本が尿素、りん酸アンモニウム、塩化加里といった主要肥料原料のほとんどを輸入に依存していると説明しています。だからこそ国際情勢の変化は、国内農業の経営課題になります。
肥料価格が上がったとき、多くの農家が最初に考えるのは「どの肥料を減らせるか」「安い代替品はないか」です。もちろん、施肥設計の見直しは重要です。しかし、投入量だけを削ると、収量や品質を落とすリスクがあります。
そこで考えたいのが、土の中にある有機物や作物残さを、次作の根が使いやすい形へ変えていく発想です。稲わら、もみ殻、収穫残さ、緑肥、堆肥。こうした地域内・圃場内の資源を分解し、土壌環境を整えることは、外部から購入する肥料への依存を少しずつ下げる経営判断になります。
肥料をすべて自前でまかなうという意味ではありません。外部資材に頼る部分を残しながら、圃場内にある有機物、微生物、根の力を活かし、購入肥料の効率を高める考え方です。


リサール酵産株式会社 代表取締役社長。微生物資材を活用した土づくりの普及に取り組む。
A:まずは「何をどれだけ入れるか」だけでなく、「入れたものが土の中で効いているか」を見直すことだと思います。肥料を増やしても、根が張れない土、微生物の働きが弱い土では、吸収効率が上がりません。土壌診断を見ながら、残さや有機物を分解できる環境を整えることが、結果的に肥料コストの防衛につながります。
もう一つ大切なのは、肥料代だけを切り離して見ないことです。根張り、排水性、土の硬さ、有機物の分解状態が悪ければ、肥料を入れても作物が使い切れません。市況が荒れている時ほど、資材の単価ではなく、1円あたりの効き方を見る必要があります。
A:いきなり大きく変える必要はありません。まずは圃場に残る作物残さを、廃棄物ではなく次作の資源として見ることです。すき込み、十分な水分、微生物資材、温度条件。この4つをそろえるだけでも、土の中で有機物を活かす流れを作れます。
ただし、残さをただ入れればよいわけではありません。水分が足りなければ分解は進みにくく、未熟なまま次作に入ると根傷みやガス障害の原因になることがあります。だから、作物残さを使うときは「何を入れるか」だけでなく、いつ、どの深さに、どれくらいの水分で、どの期間分解させるかまで設計したいですね。
A:むしろ不安定な時期ほど、土づくりは経営の土台になります。肥料価格や輸送費は農家側でコントロールしにくい。でも、根が伸びやすい土、病気が出にくい土、有機物が回る土を作ることは、自分の圃場で積み上げられます。外の変化に振り回されない力を、土の中に持っておく感覚です。
土壌改良は、すぐに派手な数字が出る投資ではないかもしれません。ただ、土が硬い、根が浅い、残さが分解されない、病気が出やすいという状態を放置すると、毎年の肥料代、農薬代、労務、収量ロスに跳ね返ります。市況不安の時に削ってよい支出と、削ると来年以降の収益力を落とす支出は分けて考えたいところです。
A:同じではありません。土づくり自給は、化学肥料を一気にやめる話ではなく、必要な肥料を効かせるための土台を作る考え方です。作物には必要な養分量がありますから、足りないものは補うべきです。
一方で、土の中に使える有機物があるのに活かせていない、根が伸びずに肥料を取り切れていない、そういう状態なら改善の余地があります。購入肥料を敵にするのではなく、購入肥料と圃場内資源の役割分担を見直すのが現実的です。
A:作物残さや有機物を土に戻したい圃場、土が硬く根張りを改善したい圃場、連作で土のバランスが崩れている圃場では、検討する価値があります。特に、残さ処理に時間がかかる、すき込んでも分解が遅い、次作の立ち上がりが鈍いという悩みは、微生物の働きと関係していることがあります。
ただし、万能薬のように使うものではありません。極端な乾燥、過湿、低温、pHの大きな偏りがあると、微生物も十分に働きにくくなります。資材を入れる前に、土壌条件を整えること。ここを外さないことが、プロ農家にとっては一番大切です。
肥料価格が高い局面では、過不足の把握が経営に直結します。pH、EC、リン酸、加里、石灰、苦土に加え、作物の根張りや排水性も合わせて確認します。
残さをただすき込むだけでは、分解遅れやガス障害のリスクがあります。水分、空気、微生物の働きをそろえ、次作に影響しにくい分解設計にします。
堆肥は有機物と物理性改善、緑肥は根量と被覆、微生物資材は分解促進と土壌環境づくり。どれか一つに寄せるのではなく、目的に合わせて組み合わせます。
今作の肥料代を抑える判断と、来年以降の土の力を落とさない判断は分けて考えます。土壌改良を削りすぎると、翌作以降の収量・品質リスクとして戻ってくる可能性があります。
中東情勢やホルムズ海峡のニュースは、農家にとって遠い話に見えるかもしれません。しかし、エネルギー、天然ガス、尿素、輸送費、肥料価格という経路をたどると、圃場の収支に直結します。
だからこそ、肥料を「安く買う」だけでなく、土の中で「効かせる」ことが重要になります。作物残さを活かし、有機物を分解し、根が伸びる環境を整える。そうした土づくりの積み重ねが、外部環境に左右されにくい農業経営の守りになります。
飯川社長が語る「捨てればゴミ、活かせば資源」という考え方は、今の市況不安の時代にこそ、プロ農家の経営判断として意味を持ちます。
微生物の働きが強く分解スピードが速いためすぐに次の栽培準備に取りかかれる
枯れた作物や根などを分解して、肥料成分として再利用できる
嫌気的条件でも活動できる微生物を含んでおり有害ガスの発生を抑えながら土壌を健全に保てる